Liar Jack Records

存在しないアーティストの存在しないディスクレビュー。頭の中で音を鳴らせ。

第17回「The Bee Attack Ⅰ」The Bee hives

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Artist:The Bee hives(Netherlands)
Title:The Bee Attack Ⅰ (2015)

Songs
01 AttackⅠ
02 AttackⅡ
03 AttackⅢ
04 AttackⅣ
05 AttackⅤ
06 AttackⅥ
07 AttackⅦ
08 AttackⅧ

 1980年生まれ、オランダの実験音楽Damian Gerd(ダミアン・ゲルド)。今、実験音楽家の中で最も評価の高い人物は彼で間違いないだろう。10歳の頃から独学で作曲、演奏活動を行い、1998年にミニマルミュージックの先駆者Steve Reichに才能を見出され、「The Play band」という名義でメジャーデビュー。デビュー当時から、複雑で変則的なリズムを主軸に鋭角的メロディー、不協和音などを駆使したインスト楽曲が多く、所謂マスロックの王道といった感じが特徴である。

The Bee hivesは、Damian Gerdが2015年に立ち上げた実験音楽集団で、楽曲制作、楽曲プロデュースはもちろんのこと、生の演奏に演劇やダンス、パフォーマンスを取り入れた非常にアヴァンギャルドなショーを公演するなど多方面に活躍の場を広げている。

そんな変態集団、The Bee hivesのファーストアルバム「The Bee Attack Ⅰ」が2015年3月に発表された。曲名らしい曲名は付いておらず、各曲が区切られることなく、全楽曲が繋がっている構成で、01「AttackⅠ」から08「AttackⅧ」までトータル52分もの大作である。歌はほとんど無く、全編インスト(05AttackⅤ」でDamianが歌っているが、何重ものエフェクトがかかっているため言葉は聞き取れない。)楽曲。

嵐の夜を感じさせるような、複数の轟音ギターが鳴り響く、01「AttackⅠ」で幕を開け、中盤05「AttackⅤ」で嵐は止む。嵐の夜が去り、静けさと朝日の中から鳴り響く心地よいハープのサウンドが聞こえてきたと思ったら、嵐はまた突然やってくる。07「AttackⅦ」ドラム3台を駆使し、少しずつテンポをずらしながら調和と破綻の淵を彷徨い、エフェクトが効いたベースとギター、シンセやサンプリング音を織り交ぜながら、徐々にフィナーレへと加速していく。

全曲通しで聞くと、まるで1本の素晴らしい映画を見たような気持ちにさせられる。インタビューで彼は「1音、1音を何日もかけて追求していく作業に、快楽を感じる。」と答えているが、このアルバムは、彼が音というものに魅了され、取り憑かれたことによる境地であり、その境地にたどり着いたものだけに許された神々の遊びなのかもしれない。

Design&Text: BustaSkill

 

これらのバンド、ジャケット、曲名などは全てフィクションであり、登場する人物、団体等、名称は実在のものとは関係ありません。脳内で音を鳴らしてお聞きください。

 

第16回「シティポップオペラ」キャロルライダー

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Artist:キャロルライダー(JAPAN)

Title:シティポップオペラ (1972)
Songs

01 キャロルライダーのシティポップオペラ

02 家に帰ろう

03 ガラス越しの恋はいつも明るい

04 始まりの街

05 赤い国道

06 群青賛歌

07 何もない時代

08 ガラクタになったギターケース

09 電気の村

10 傘を差しても

1960年代後半~70年代の日本にはフォークの風が吹いていた。数多くの若者たちがギターを手にし、日本の音楽シーンは飛躍的に進化していく。そんな、セピア色した空気の中で、数多くのバンドが生まれ、消えていった。キャロルライダーの曲を聴くと、セピア色の記憶がカラーに変わる。当時の時代の空気を感じさせる名曲の数々は、何もかもがデジタル化された現代になっても色あせることなく鳴り響く。

1970年「サンマル喫茶」のヒット共にデビューしたキャロルライダー。同年に1stアルバム「ああ、これが青春か。」をリリース。当時、橋本憲武(Vo.Gt.)の「和製ボブディラン」と例えられた特徴的な声色は賛否両論だった。人と違った特異な声質と、ディランのような気だるい歌い方、それでいて伸びある声は、彼が生まれながらに持っていた、才能であると言えるだろう。

そして、1972年「シティポップオペラ」がリリースされる頃、橋本憲武はギターをアコギから、エレキに持ち替え、フォークからロックに傾倒していく。独特の声は歪んだギターの音と見事に調和し、歌い方も徐々にエモーショナルになっていく。キャロルライダーは、はっぴいえんどや、RCサクセションなどと共に日本のロックシーンを牽引し、日本語でロックを歌った第一世代と言っても良いのではないだろうか。

このアルバムは、日本語でロックが出来るということを証明し、日本の音楽シーンに大きな転機をもたらした。これ以降、多くのバンドが日本語詞でロックを演奏するようになり、次第にそれは市民権を得て現代へと続いている。

このアルバム「シティポップオペラ」と、それを生み出したキャロルライダーの功績は計り知れない。それを証明するように2017年、「何もかもがある」時代になっても、彼らの「何もない時代」は人々の耳に届き続けている。

Design&Text: BustaSkill

 

これらのバンド、ジャケット、曲名などは全てフィクションであり、登場する人物、団体等、名称は実在のものとは関係ありません。脳内で音を鳴らしてお聞きください。

 

第15回「Psychedelic Cakes」N-FUNKY

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Artist:N-FUNKY(U.S.A)
Title:Psychedelic Cakes (2011)
Songs
01 Base head
02 Buzz beat
03 Psychedelic Cakes
04 N.Y candy
05 Punk Rap
06 MC Acoustic
07 Dancing All Night
08 Street of proof
09 Underground Vibrations
10 You're a madman
11 Clown
12 keep it real

1999年にエミネムがメジャーデビューし、Hip-Hop界のみならず、音楽業界のスパースターに登りつめてから10年後、多様化したHip-Hop文化を象徴する形で世に現れたN-FUNKY。幼少期から家にあったクラシックギターを奏で、中学生の頃には自身で作詞、作曲した楽曲テープを、Dr.Dreの家に毎週送りつけていたというツワモノ。クラシックギターの腕前は誰もが認める超一流であり、そんな超絶ギターテクをさらっとこなしながら、ラップまでかましてしまう彼の才能は異常とまでも言える。

2010年に5曲入りミニアルバム「Cakes」をリリースしたと同時に各地で火がつき、フルアルバムが期待されてから1年後、満を持して発表された12曲入りのフルアルバム「Psychedelic Cakes」。ほとんどの楽曲が、クラシックギターとラップのみという極限にシンプルな構成であり、メロウなギターサウンドの上に、まるでジェームス・ブラウンの様なパワフルかつ、ソウルフルな声で紡ぎ出される言葉の数々は、Hip-Hopリスナーだけでなく、すべての音楽リスナーを虜にした。

楽器や機材のデジタル化が日々進む中、ライブでもほとんどの曲を弾き語りスタイルで披露する。人類が遥か昔に編み出した、音を楽しむという行為と非常に近い原始的な感覚で作り出される彼の音楽からは、音楽の原点を私たちに感じさせてくれる。また最近では、Lady GaGaや、The Rolling Stonesをはじめ、多くの有名ミュージシャンとコラボレーションしており、世代やジャンルを超えて愛されるアーティストに成長している。そんな無邪気な彼から今後も目が離せない。

Design&Text: BustaSkill

 

これらのバンド、ジャケット、曲名などは全てフィクションであり、登場する人物、団体等、名称は実在のものとは関係ありません。脳内で音を鳴らしてお聞きください。

第14回「Seven of tepid poison」The Five Five Fives

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ArtistThe Five Five FivesU.S.A
Title
Seven of tepid poison (1994)

Songs
01 Happy day
02 Testimony
03 Dog fanfare
04 The end of the world
05 Space punk
06 Hangover girl
07 Whose
08 Explosion
09 Red

1990年代、OffspringGreen Dayと共に90年代パンクブームを引っ張ってきたバンドの1つThe Five Five Fivesピストルズやクラッシュの様な、怒り、衝動、焦燥などでは無く、キャッチーでポジティブな90年代パンクは、人気と共に多くの批判も集めた。その中心にいたThe Five Five Fivesが人気を掴むきっかけとなった1stアルバム「Seven of tepid poison」。

インディーズレーベルからリリースされたにも関わらず1000万枚を売り上げる大ヒットを記録し、彼らは一躍ロックの次世代を担う存在だともてはやされた。それまで流行っていたNirvanaの様な、どこか陰鬱でアンダーグラウンドグランジロックや、オルタナティブとは正反対なポップで明るいサウンド。怒りや衝動性の無い保守的にもとらえられる歌詞などは、当時こんな物はパンクじゃないとインディーシーンからの批判も多かった。

しかし、このアルバムは、ロックやパンクに限らず、音楽の向かうべき方向性を示した数少ないアルバムであったと思う。それまでのロックのシーン、いわゆるグランジオルタナが持っていた、陰鬱で内的なものをそのまま表現するのではなく、それをポジティブで明るく、楽しい方向へと変換し表現した。

01「Happy day」の冒頭、「みんなが楽しくて、俺も楽しい。他に何がいるんだい。」という歌詞は、当時のロックが失いかけていたLOVEPEACEでは無いだろうか。ロックが本来持っていたポジティブな部分をThe Five Five Fivesは継承していたのだ。カートコバーンは自ら命を絶った。良い悪いは別として、それもロックかもしれない。しかし、彼らは前を向いて生きることを選んだ。この歩みがあったからこそ、今もロックは時代と共に走り続けているのではないだろうか。

現在、ロックンロールがそのイズムを失わずかき鳴らされている事実、それこそが当時、彼らが向かった方向が正しかったことを証明する何よりの証拠ではないだろうか。

Design&Text: BustaSkill

 

これらのバンド、ジャケット、曲名などは全てフィクションであり、登場する人物、団体等、名称は実在のものとは関係ありません。脳内で音を鳴らしてお聞きください。

第13回「High tide blues」The Golden Roads

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ArtistThe Golden RoadsAustralia
Title
High tide blues(2004)

Songs
01 High tide blues
02 Crossroads of torrent
03 Dust box Rock
04 Vanish town
05 Dopeness click
06 Tightrope walking blues
07 Good thing
08 Mic check Road
09 Red season
10 Jimmy punk
11 Sympathy for the Devil Cover

1960~70年代のロックンロールを聞いて育った、オーストラリア出身のThe Golden Roadsの1stアルバム。彼らの1年先輩、同じくオーストラリア出身JETの前座をアマチュア時代からこなしていた彼らの楽曲は、変化球なし直球一本勝負だ。オーストラリアからはなぜこんなにもパワー溢れるバンドがたくさん生まれるのだろうか。1曲目から最終曲まで一気に駆け抜けるその潔さは、実にあっぱれである。

ザクザクしたギターリフ、どこかぶっきらぼうでしゃがれたボーカルはロックンロールの学校をしっかり卒業した証である。全体的にアップテンポな楽曲がほとんどだが、ビートルズを彷彿させる04「Vanish town」。ピンクフロイド的アプローチの、07「Good thing」。ロックバラードの王道進行やコーラスが心地よい、09「Red season」など、バラード楽曲も絶品である。

この手のバンドは良くも悪くも、オリジナリティーがないと評価されることが多いが、彼らからは、そんな事はどうでも良いという感じがひしひしと伝わってくる。「好きなものは好きなんだ。だからなんだ。」と言わんばかりの姿勢は非常に好感が持てるし、なにより聞いていて心地よい。ストーンズの名曲カバー11「Sympathy for the Devil (Cover)」の原曲に忠実なアレンジからは、彼らのそういった姿勢が良く表れている。

惜しくもデビューから2年で解散してしまったが、オセアニア発、AC/DCを母としたオージーロックの息子たちの熱い活躍をこれからも期待したい。

Design&Text: BustaSkill

 

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第12回「GLORIA」The Rainy Sundays

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ArtistThe Rainy SundaysIreland
Title
GLORIA(1999)

Songs
01 Benevolent children
02 Bible
03 Apocalypse Rock
04 Jesus
05 Crime and Punishment
06 Morning fog
07 Riding on the night train
08 Classic car
09 In front of the mother's grave
10 After his death 100 years

世界が来る21世紀を前に騒がしかった時代、20世紀最後の年にリリースされたアイルランド出身の5人組 The Rainy Sundays の1stアルバム。バンドメンバー全員がクリスチャンであり、それが曲名や歌詞に色濃く反映されている。

作詞作曲はフロントマンであるDevitt Murphy(Vo.)。ほとんどの曲が、Murphyが10代の頃から書きためた詩や曲であり、Murphy自身が、当時のインタビューで「聖書の言葉ほど美しいものは無い。」と断言しているだけあり、歌詞の中には聖書の言葉が多く使用されている。

01「Benevolent children」心地よいギターのアルペジオの中「In the beginning was the Word, and the Word was with God, and the Word was God(初めにことばがあった。ことばは神と共にあった。 ことばは神であった。)」と高い声で歌われる。この冒頭こそ、このアルバムを最も象徴するものであろう。02「Bible」のサビでは、激情的なバイオリンに合わせて、「This is my commandment, that you love one another as I have loved you(わたしのいましめは、これである。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。)」と繰り返す。ほとんどの楽曲が神や、生と死などについて歌われており、かなり好き嫌いが分かれるバンドではあるが、楽曲自体のクオリティーは非常に高い。

紅一点であるバイオリンのCara Kellyは町の聖歌隊や、オーケストラの団員としても活躍しており、その演奏技術は素晴らしい限りだ。このバイオリンの音が他のバンド楽器と合わさり、非常に聞き応えのある楽曲に仕上がっており、まさに、ロックの可能性を広げた一枚と言えるだろう。

Design&Text: BustaSkill

 

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第11回「電気は消して。」THE PANTYS

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ArtistTHE PANTYSJAPAN
Title
:電気は消して。 (2005)

Songs
01 奥にちょうだい
02 PANTYS音頭
03 ツッコミ待ちの奴の顔
04 地球外性命体
05 電気は消して。
06 ナンシーに憧れる少女は穴の中
07 カフェで流れるフランクザッパ
08 煙たいラブソング
09 可愛い依存症候群
10 殴ってもいいよ。てか、殴れよ。
11 21世紀バージン
12 元彼の歌

2000年代初頭からメンバーの地元、下北沢から火がつき、その過激な音楽性やパフォーマンスで注目を集めた伝説的ガールズバンドTHE PANTYS。ライブ中に暴れまわりほとんど演奏しないでステージを火の海にしたり、渋谷スクランブル交差点のど真ん中でゲリラライブを敢行し、メンバー全員が逮捕されるなど、数々の伝説を残してきた。

そんな彼女たちの最初で最後の音源作品。「電気は消して。」アルバムジャケットがあまりに過激だったため発売禁止となり、モザイク処理されたジャケットで再発売された。しかし、デモ音源で会場配布されていたジャケットにはモザイクがかかっておらず、マニアの間でプレミアとして高値で取引されている。

その過激なパフォーマンスからも分かるように、歌詞もとてもじゃないが発売できるような内容ではない。しかし、社会の批判的な声が増えれば増えるほど、彼女たちを支持する若者も増えていった。ストレートで無修正な彼女たちの音楽は、同世代の若者の心をがっつりと捉えて離さなかった。2005年に行われた全国ツアーでは、どの会場でも厳重な警備や警察官が配備されていたにもかかわらず、合計38人のけが人が出るなど、誰も彼女たちを止めることはできなかった。

そんな全国ツアーのファイナルが地元、下北沢で行われた翌日、ボーカルでバンドの顔でもある矢沢愛が、自宅のベランダから飛び降りこの世を去るという衝撃的な事件で、バンドは解散と同時に伝説となった。まるでスクリーンの中のロックスターのような人生を送った彼女たちのパワーは今も伝説として日本のロックシーンで語り継がれている。

Design&Text: BustaSkill

 

これらのバンド、ジャケット、曲名などは全てフィクションであり、登場する人物、団体等、名称は実在のものとは関係ありません。脳内で音を鳴らしてお聞きください。